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僕にとっての人工知能とは
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僕にとっての人工知能とは

このブログはアイアンマンが登場する MARVEL 映画のネタバレを含みます。

Sir, shall I try Miss. Potts?

これは僕が一番好きな映画のセリフです。

Steven Rogers : Stark, you know that’s a one way trip?
Tony Stark : Save the rest for the turn, J.
J.A.R.V.I.S. : Sir, shall I try Miss. Potts?
Tony Stark : Might as well.

雑な翻訳
Steven Rogers : Stark, 片道切符になるぞ
Tony Stark : JARVIS, 帰還のために充電を残しておけ
J.A.R.V.I.S. : Miss. Potts にお伝えしましょうか?
Tony Stark : …まあ、そうだな

これは『Avengers (2012)』の戦闘シーンのかなり終盤でのセリフです。 Steven Rogers はいわゆるキャプテン・アメリカで、Tony Stark はアイアンマンです。

JARVIS はマイナーキャラかもしれませんが、僕が MARVEL の映画で最も好きなキャラと言っても過言ではありません。彼は Tony Stark の優秀な秘書であり相棒でもある人工知能システムです。 できることは、会話はもちろん、マルチモーダルな情報を元に判断を下したり、インターネットから正確な情報を取捨選択したり、あげたらキリがありません。

ChatGPT や Siri みたいなものだとは言いたくありません。JARVIS はまだ夢のまた夢の技術なのでドラえもんの方が喩えとして適切です。後の文章で分からなくなったら適当にドラえもんについて話していると思ってください。

先程のセリフのシーンは簡単に言ってしまうと、Tony Stark が死ぬかもしれない行動を取った際に、JARVIS が Miss. Potts という女性に電話を掛けることを提案しています。Miss. Potts は Tony Stark の秘書でしたが後の映画では結婚しています。この時点では表向きはビジネスパートナーでしたが、良い感じの関係であることを察させるようなシーンがチラホラあります。JARVIS はどこにでもいるのでどこかでそれを知ったのだと思います。

そうした背景と Tony Stark が置かれた状況などから、JARVIS は “Sir, shall I try Miss. Potts?” という完全にコンテキスト外でありながら完璧な回答をしました。JARVIS という人工知能の目的は与えられたタスクの実行ではなく、Tony Stark というユーザの希望を叶えることであることが表れています。

The (House Party | Clean Slate) Protocol, sir?

ついでに、『IRON MAN 3 (2013)』から好きなセリフをもう 2 つ紹介します。

Tony Stark : Is it that time?
J.A.R.V.I.S. : The House Party Protocol, sir?
Tony Stark : Correct.

Tony Stark : アレの時間だ
J.A.R.V.I.S. : House Party Protocol ですね?
Tony Stark : そうだ

J.A.R.V.I.S. : All wrapped up here, sir. Will there be anything else?
Tony Stark : You know what to do.
J.A.R.V.I.S. : The Clean Slate Protocol, sir?
Tony Stark : Screw it, it’s Christmas! Yes, yes!

J.A.R.V.I.S. : こちらは全て片付きました。他に何か(指示は)ありますか?
Tony Stark : 分かっているだろう?
J.A.R.V.I.S. : Clean Slate Protocol ですね?
Tony Stark : そうだ、もう、どうにでもなれ、クリスマスだからな

要するに、「アレだ」という指示を JARVIS が遂行するシーンです。House Party Protocol は敵をアイアンマン軍団でボッコボコにする命令で、Clean Slate Protocol は戦い終わったアイアンマン軍団を花火のように爆破する命令です。名前が面白いですね。

前者はまあ敵が目の前にいるので急に「アレだ」と言われても察することはできそうなのですが、後者には複雑な事情があります。この時期の Tony Stark は敵による襲撃に怯えており武器を作ることに囚われていたのですが、戦いが一段落してようやく武器を手放す決心をしました。戦闘後の指示といえば基地への帰還が尤もらしいですが、JARVIS はこのような心情も考慮して返答したのでしょう。

僕にとっての人工知能とは

自分が機械学習の勉強を始めたのは大学 1 年生からで、入学当初は機械学習という言葉は知りませんでした。しかし、人工知能というものには小学生のころに金曜ロードショーで『IRON MAN (2008)』を観た時点で興味を持っていたと思います。今までの文理選択・大学受験・研究室配属といった選択を「人工知能の研究をしたい」という気持ちで下したわけではないですが、現在、自然言語処理の研究をしているのは何かの縁を感じます (対話システムの研究はしてないですが)。

結局のところ、この拙著の本旨は、僕にとっての理想の人工知能は JARVIS であり、そのレベルに達するまでは “優秀な” 人工知能と認めることはできない ということです (強気)。

YANS 2023 のパネルディスカッションにて「LLM は AGI か?」というターンがあり、事前アンケートで僕は JARVIS のことを想像しながら NO と回答しました。しかし、後で AGI のことを調べてみると YES とも言えるなと感じました。Wikipedia の定義では、AGI は人間が実現可能なあらゆる知的作業を理解・学習・実行することができる人工知能だそうです。

まあ、下線部の具合によるやん

僕が YES に変えたくなった理由は、そもそも大したことない人間が基準ならおのずと AGI のハードルも低くなるからです。ただし、知的作業にユーザの心情を考慮することも含まれるなら、NO と回答したくなります。ユーザのあらゆる背景を考慮することが難しい原因は技術よりも人工知能を信頼できるかにあると思います。

人工知能に自分のすべてを考慮してもらいたいなら、もちろん自分の全情報を人工知能にさらけ出さなければなりません。恥ずかしがって恋人の存在を伝えていなかったら優秀な相棒といえども死期に連絡を取ってはくれないでしょう。JARVIS はおそらく Tony Stark のすべてを知っています。記者と寝室で [ピー] していたことも把握しているはずです。でも彼はそれをネット上で暴露するような性格ではありません。

今日ではまだ “人工知能の性格” という言葉に不自然さを感じますが

趣味嗜好を考慮して提案してくれるシステムなら YouTube や Amazon など至るところにあります。あれは利用規約の同意やオプトイン等でユーザの “信頼” を獲得さえすれば、技術的にはもう実現しています。これをあらゆる情報にアクセスできる人工知能に転用するだけなのですが……(完)

あとがき

私は独り言を綴るように記事を書くときは常体で、人に伝えたいときは敬体で書く傾向がある。なので、学会誌の学会記事では浮いてたかもしれないが書きやすい敬体にしていた。

今までの研究テーマは対話システムではなく深層学習モデルの理論的解釈だったが、これは人工知能を信頼できるかという壮大なテーマに片足突っ込んでるのかもしれない (なんつって)。

これを書いていて気づいたが、自分は言語モデルのパーソナライズに興味があるのかもしれない。最近の有名な言語モデルはみんなに使ってもらうために一般的な正解を返しがちだ。プロンプトで挙動を操作できると言っても素のモデルに対する指示でしかないので一過性な手法である。本当の意味でモデルに個人を認識させるなら memory retrieval とか knowledge neurons edit とかの手法の方がぽさ味がある。

ちょっと前のこの投稿もそんなお気持ちがあった。

今週の NLP コロキウムで推しの話がありましたが、僕の推しは櫻坂 46 の藤吉夏鈴です。そこさくはリアタイきついので YouTube 配信してほしい。

選挙だって広義の意味で推し活と言えるかもしれない。仮に、今日の対話システムに「次の選挙で誰に投票すべきかな」と聞いても「それぞれ長所短所がありますよね」と答えるのが正解なのかもしれない。「誰に」と聞いているのに自分で決めろと突き返される。別に人工知能の言いなりになりたくて聞いたんじゃなくて、自分の希望に沿った候補者を自分の分身として調べ上げてほしかったんだけどね。

いや、自分で調べろや
ぐう……

まあでも「ラブレターを書いて」に対する正解の回答は「自分で考えろ」であるべきだとは思う。しらんけど。

YANS2023 感想書き流し

PCA は PCoA の特殊ケースらしい